コーヒーロースター、映画に夢中
柳ケ瀬を舞台に夢の自主製作作品も
1年間に200本は下らない。店の休業日の月曜日は、朝から映画三昧。DVDで見るのは映画じゃないと決めつける映画館至上主義者。3館、4館と梯子して帰宅は9時、10時となるが、家族はとうに諦めたらしく、もう何も言わない。
映画はもちろん趣味。本業は柳ケ瀬に店を出す焙煎コーヒー店のオーナーだ。岐阜髙島屋のすぐ南の路地に間口2間ほどの小ぢんまりした店。生豆が詰まった麻袋を見下ろして焙煎機がうなりを上げている。オープンして1年だが、馴染みのファンもついて、1杯200円の挽きたてを飲みに来る常連もできた。店内に張られた映画のチラシを見て、映画の話題で盛り上がることもしばしば。
映画を見るだけでは飽き足らず、映画製作にのめり込んだのが3年前。岐阜市などが主催する映画ワークショップに参加したのがきっかけだ。10人ほどのグループで、役割を分担し実際に映画づくりに挑戦する講座。柳ケ瀬でロケをするという地域おこしの企画でもあった。メンバーは映画大好きの社会人や高校生。スタッフも出演者もみんな素人ばかりで、石榑さんにも監督・脚本の役が回ってきた。
「見るのは大好きだけど、つくることなど考えてもみなかった。しかし、あのドキドキ感は、一度知ったらやめられませんね」
第1作は「都市伝説」。ホラー仕立ての短編だが、「初めてでうまくできるはずがない」と冷静に自己批判。「青い扉」は第2作。冷蔵庫に取りついた女の霊との交感を描いた風変わりなラブストーリーで、「少しはましになったかな」。
映画の出来よりもうれしかったのは、仲間とのつながりが深まったこと。愛着の深い柳ケ瀬を舞台にしたことで、ささやかながらも町おこしにも貢献できた。
ワークショップで知り合った仲間が、自主製作作品を作ろうと言い出す。探偵ものシリーズで、タイトルは「石暮探偵事務所」と決まった。「いしぐれ珈琲」が舞台となり、石榑さんはマスター役で出演した。作品は3作が既に完成、短編映画のコンペにも出品した。4作目の監督を狙って、アイデアを練っている。
石榑さんとコーヒーとの出会いは、岐阜大学の学生だった頃。柳ケ瀬の喫茶店でアルバイトをして夢中になり、大学を中退して大学の近くに喫茶店を開いてしまった。その後、焙煎会社に20年勤めて技術を極め、去年、今の店を持った。
好きになるととことん究めたくなる石榑さん。映画にのめり込んだのは30代だが、ため込んだマグマは半端でない。次回作が楽しみである。
Photo
- コーヒーロースター 石榑昇司さん
─人生を支える宝もの─
ワークショップで2本の短編映画を監督した後、自主製作にも参加。でき上がった作品のDVDは、映画仲間がひとつの時間を生きた喜びの証でもある。
Profile
いしぐれしょうじ
オーナーロースターの店「いしぐれ珈琲」店主。昭和29年岐阜市生まれ。岐阜大学中退後喫茶店経営、焙煎会社勤務を経て、平成21年岐阜市神室町で自分の店をオープン。脚本に仕掛けの多い映画が好き。主に単館映画を見るが、メジャー作品で最近感心したのは「ディア・ドクター」や「グラン・トリノ」。
いしぐれ珈琲
- 岐阜市神室町2-15
- TEL.090-9904-2119
映画「石暮探偵事務所」3作上映会
- 平成22年11月3日(水・祝)13時~・15時~・17時~の3回
- 会場:御浪町ホール 料金:200円