「いらっしゃい!」「味噌一つね!」。揃いのTシャツに身を包んだ女性スタッフの明るい声が飛び交う店内。パチパチと音を立てる揚げ物の匂いが、食欲を掻き立てる。JR岐阜駅の東、「とんかつの松屋」は、今日も多くの人で賑わっている。
昭和25年に大衆食堂として創業。2代目は、店に立ち始めて62年目の後藤和彦さん。「戦時中は貧しくて腹いっぱい食べれんかった。一品で満腹になる幸せをお客さんにも感じてほしいと思ってね」。そんな気持ちから“安くてボリューム満点”を店のモットーに決めた。
うどんや丼をはじめ、30種類以上のメニューの中でも圧倒的な人気を誇るのが、皿いっぱいに盛り付けられた「みそかつライス」。生の国産豚に秘伝のつなぎをつけて、細かくしたパン粉をまとわせる。100%のラードでからりと揚げたら甘めの味噌をたっぷりかけて、からしを一塗り。ラードならではのコクのある風味とサクッと香ばしい薄めの衣、柔らかな肉とのバランスが絶妙な一皿だ。
「親父は味付けも雑に見えるんだけど何を作っても旨い」。そう話すのは、息子の悟さん。尊敬する父からこの味を継ぎ、今では立派な3代目として腕をふるう。
「誰でも気軽に入れる雰囲気と安さ、飽きないレパートリーは大衆食堂ならではの魅力」と語る悟さんも、一時は食堂からの転換を考えた。「バブルの時代だったからね。食堂が野暮ったくて」。だがそこには、毎日のように通ってくれる常連や大人になり子どもを連れて訪れる客の姿、そして厨房に立ちながら交わす客との何気ない会話があった。「やっぱり大衆食堂は最高って心から思ったんだ」。
迷いは晴れ、目指すのは創業100年。空腹のお腹をいっぱいに満たしてくれる馴染みの味は、これからも変わらない。
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- 1. 1.5 玉分の焼きそばやずっしりと重いオムライスなど、メニューはどれもボリューム満点。「お客さんとプライベートな話も結構するよ」と笑う3 代目の悟さん(右)と2 代目の和彦さん(左)。焼きそば/¥550、オムライス/¥650
- 2. 創業以来、家族で店を切り盛りしている。女性スタッフの丁寧でいて気さくな接客にほっとする客も多い
- 3. 肉の旨みを逃がさないように、音の変化を聞き分けて素早く上げる。和彦さんと悟さんの間では、「とんかつの声」と呼んでいる
- 4. 昼時になると、たくさんの人で埋まる店内。男性が圧倒的に多い
- 5. 大きな看板が目印。すぐ隣の駐車場は広々としていて、車での来店も便利
- 6. 通年人気のみそかつライス。通常サイズとS(エス)とW(ダブル)がある。大盛のキャベツ、ご飯、漬物付き。みそかつライス/¥750、S ¥650、W ¥850
とんかつの松屋 [ トンカツノマツヤ]
- 〒500-8412 岐阜市松鴻町2-14
- TEL.058-271-6731
- 営業時間◇11:00~14:30、17:00~20:00
- 定休日◇日曜日・祝日
- 駐車場◇20台