「水餃子一つ!」、「僕は酢豚セットね」。店内で注文が飛び交う中国料理店『清福』。客たちは運ばれてくる待望の一皿に、目を輝かせる。
「小さいころから中華が大好き。今でも休みの日には食べに行くぐらい」と話す店主の恩田正之さん。19歳の時、横浜の店で修業を始め、その後名古屋や京都で腕を磨く。平成15年、西柳ケ瀬のこの地で、両親が営んでいた和食料理店“清福”(きよふく)を中国語読みの“清福”(チンプー)に改め、スタートを切った。
評判の酢豚は豚ばら肉の塊を4時間も煮込んで寝かせ、注文ごとに揚げる。角煮のように柔らかい肉、鎮江(ちんこう)産黒酢と国産酢をブレンドしたまろやかな酸味の妙に、思わず唸る。「清福の“アレ”が食べたいって、うちの味を目指して来てほしいんやて」。この辺りでは珍しい脱皮蟹の唐揚げは、殻ごと味わえる醍醐味を損なわぬようにと、軽い衣でさっと揚げて少量の塩のみで味付けする。身の甘みと蟹味噌の苦味が舌の上でじわりと広がる一品。また、一口ごとに辛さが効いてくる麻婆豆腐。「中国産だけでは風味が物足りないし、国産だけだと色が悪い」と、その2種類の醤油や豆板醤を巧みに組み合わせて、山椒油を忍ばせる。どの料理も“名物”と言えるほどの堂々たる風格を持つ。中国料理の基本から逸することなく、その上で、味や香りの広がり、舌触り、色彩までを考え抜いて理想の形へと磨き上げてきた自信作だ。
一人で仕切る厨房。混雑時はとにかく慌ただしいが、料理を扱う姿は実に静穏だ。身崩れを防ぐために鍋はなでるように揺らし、盛り付けは集中して丁寧に。料理へのひたむきさ、実直な思いが一皿一皿の隅々にまで表れる。
美味しいものを作ることは難しいが、記憶に残る味はもっと難しい。「1日に2回来てくれた人もいたなあ。びっくりしたけど、嬉しかった」。“ここにしかない味”を求めて訪れる客のために、今日も彼は鍋を振るう。
Photo
- 脱皮蟹は柔らかい殻ごと揚げる。「新感覚で楽しいでしょ」と恩田さん。絶妙な酸味が効く酢豚は美濃ヘルシーポークを使用。脱皮蟹の唐揚(2匹)/¥1,050、とろとろ肉の鎮江黒酢ぶた(小)/¥950
- 辛さを調節できるようにと、山椒を添えて出す。チンプー式麻婆豆腐(小)/¥950
- 厨房では寡黙な恩田さんも大好きな中国料理の話になると饒舌になる。新たな清福名物を生み出すための研究にも余念がない
- 本場のものと国産の調味料を巧妙に組み合わせて仕上げる。卓上にある風味豊かな鎮江産黒酢はお好みで
- 夜は2階の座敷席も利用できる。冷えたビールや紹興酒とともに味わう料理もまた格別
中国料理 清福 チンプー
- 岐阜市日ノ出町4-22-3
- TEL◇058-262-5053
- 営業時間◇11:30~14:00、17:00~22:00
- 定休日◇日曜日