作家のアトリエやショップ、カフェや古着屋などが集まる「やながせ倉庫」に、またひとつユニークな場所が誕生した。大小さまざまに区切られた202のスペースに“入居”すると、作品や雑貨などが自由に並べられる『やながせ倉庫団地』。入居受付初日から申し込みが殺到。6月のオープンから2カ月で既に150近くが埋まった。
団地を管理するのは上田沙奈さん。父の哲司さんは、祖父から譲り受けた古い雑居ビルをリノベーションし、「やながせ倉庫」へと生まれ変わらせた張本人だ。ある日、父が切り出した。「お前、団地を管理してみんか」。
哲司さんと同じ仕事をするなんて無理だ、と沙奈さんは困惑した。「だって、父は一番尊敬する人。人としても仕事面でも。私は父には絶対になれない。あのハードルは超えられないって、分かってたんで」。コツコツとビルを改築し、苦労話は一切せず、誰からも慕われる父。存在は大きかった。でも、自分なりのやり方で父の力になれるなら。
高校はブラスバンドの部活に熱中、進学した専門学校を4カ月で中退、自宅で塞ぎ込み、手伝いで始めた庭師の仕事が性に合って没頭、そして一風変わった団地の管理人に。弱冠21歳にしてなかなか波乱万丈な人生は、これで結構面白い。「もう“普通”の基準が、おかしいかも」。
カウンターでパソコンとにらめっこしながら、時折、団地の様子を観察する。じっと部屋を覗き込んでいる人。愛しそうにアクセサリーを手に取る人。雑多に並ぶモノの向こうに、住人の顔が浮かぶ。「どうすれば皆さんに満足してもらえるか。まだまだ課題はいっぱい。住人たちとコラボしてイベントもやりたいし」。父譲りの世話好きな一面をのぞかせ、人懐っこい笑顔で沙奈さんは笑う。この団地にはいろんな人の夢や、想いが詰まっている。そして、彼女もまた、熱い夢や想いを抱えた住人なのだ。
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- 手作りのアクセサリー、レトロな文具、イラストや服なども並び、見飽きない。レイアウトにも“住人”の人柄が表れる。家賃/毎月¥1,500~5,000(スペースにより異なる。常駐スタッフによる委託販売の手数料は無料)
- 上田沙奈さん(左)と哲司さん(右)。仲の良い管理人父娘は、笑い方もそっくり!
- 初めて訪れる人には、まるで迷路のように見える「やながせ倉庫」。廊下を進んだ突き当り左手に団地がある
- 実店舗を持つ人がアンテナショップとして活用する場合も多い。中には、定期的に野菜を並べる八百屋まで登場するなど、使われ方は実に多様
- 団地の奥にある「mokku mokku」にはアンティークの家具や道具などが並ぶ。掘り出し物が見つかるかも
やながせ倉庫団地 [やながせそうこだんち]
- 岐阜市弥生町10 やながせ倉庫1F
- TEL◇058-265-2123
- 営業時間◇12:00~18:00
- 定休日◇火・水曜日
- ホームページ◇http://yanagasesouko.com/