柳ケ瀬商店街の金華橋通り沿いにある『そば くら富』。客を迎えるのは厨房を囲むカウンター10席のみ。重厚感のある贅沢な空間で、本格的な十割そばを手頃に堪能できると評判の店だ。
店主の小澤雄己(ゆうき)さんは19歳で初めて手打ちの十割そばを食べ、衝撃を受けた。そばは、こんなにも美味いものだったのか。「これはおっさんになるまでに、自分でそばを作って出すようにならなきゃと思って」。20年ほどイタリア料理店で働き、資金を貯めながら、全国で名だたるそばを食べ歩く。そして名古屋に本店を持つ「紗羅餐(さらざん)」で3年間修業し、そば打ちを体得。その後、独学で粉づくりに励んだ。「粉の粒の粗さは石臼を回す速さや、そばの実の堅さでも変わる。粗いとそばが繋がらないし、細かすぎると風味が飛ぶ。どこでバランスを取るか。とにかくトライ&エラーの繰り返しでした」。約2年を経て、ようやく納得。ついに44歳で妻と二人、暖簾を掲げた。
そばの実を仕入れるのは年に一度、11月頃の収穫期のみ。滋賀県多賀町産の「常陸(ひたち)秋そば」をメインに、新潟県妙高市関山産と福井県あわら市産の希少な在来種も含めて総計2トンを、殻が付いた状態の“玄そば”で仕入れ、風味を損なわぬよう低温保存する。毎朝、使う分の玄そばを石臼で手挽きし、つなぎを一切入れずにそばを打つ。洗練された細切りではなく、粗挽きで殻の粒が少し残るほどの、やや太めのそば。「野趣に富んで、香りも味もしっかりした、そばらしいそばが好きなんです」。口に含むと、そば特有の香りが鼻腔から抜け、噛むほどに深い味わいが広がる。客を頷かせ、魅了するそばが、そこにある。
「そばは正解がなく、自分の中で最適解を導き出す世界。それだけに、毎日、自分のイメージをきちんと皿の上にのせて届けているって実感があります」。やっぱりそば屋になって良かった、と小澤さんは清々しく笑う。
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- みずみずしく弾力のあるそばと、野菜や海老、牡蠣など揚げたての天ぷらに舌鼓。年間で仕入れる玄そばに限りがあるため、そばは1日30食のみで、昼に売り切れることも。天ぷらとざるそばのセット/¥1,280(税込)
- 低温調理した鴨ロースには「絶対の自信がある」と小澤さん。鴨南蛮/¥1,580(税込)
- 夜はそばがきなどの単品もあるほか、予約をすれば、先付けから前菜、天ぷら、そば、デザートまで、小澤さんが料理の腕をふるうコース料理(¥2,000~)も楽しめる
- 「お子様連れでも、お喋りをしてもらっても全然構いません」。この気安さも多くの客から愛される理由だ
- そばの実。奥が“玄そば”で、手前が黒い殻を剥いた状態の“丸抜き”
- 蟹料理店を改装した立派な店構え。平成28年8月に満を持して開店
そば くら富 [ソバ クラトミ]
- 岐阜市金町2-7
- TEL◇058-215-0231
- 営業時間◇11:00~14:30、
17:00~20:00(OS19:30) - 定休日◇火曜日、第2・4水曜日