蒸し器の中で、こぶし大の「蒸しパン」が、ぽこぽことできあがる。沖縄のドーナツ「さーたーあんだーぎー」がサクッと揚がり、ころころと山になる。「大量にできた光景を見ると、よしよしって思うんです」。満足気に話すのは『ティダティダ』の店主・水野陽子さんだ。「気付いたら作るものすべてが丸で(笑)」。食べるよりも作って食べさせることが好き、という水野さんが、平飼いの鶏の卵や国産全粒粉、黒糖など、体に優しい食材でシンプルに作る丸いおやつは、何気ない日常をふわりと幸せにする温もりがある。店は昭和映画を上映する柳ケ瀬の劇場の1階にある。
始まりは10年以上前。子育て中に働いた沖縄料理店でのこと。「さーたーあんだーぎーの、ボウルで材料を混ぜて混ぜてっていう単純な作業が性に合って」。楽しくて自宅で作り、じきに地元の祭りやフェスなどに出店。拠点が欲しいと思い始めた矢先、この場所と縁が繋がった。平成26年、おもちゃのパチンコ台やレトロなタイルなどで飾った、小さなテイクアウト専門店を開く。木枠の小窓からエプロン姿の水野さんが顔を出すと、サラリーマンや主婦、商店街の店主らがふらりと立ち寄る。映画鑑賞帰りのお年寄りはのんびり世間話。「お話だけの方も多いですね(笑)」。
最近は豆乳を使った、もちもちの蒸しパン作りにはまっている。ほんのり甘い生地に、苺やカレーなどの具の風味がぐっと広がる。「私が作るのはお母さんのおやつ。空腹のときに頬張るような」。特別ではない普段のものを。思いのルーツは高校時代にあった。学校帰りに通ったチャキチャキのおばちゃんが営む店。お好み焼き180円、ラーメン390円。地元の人や高校生、教員が憩う場所。毎日そこにあって気軽に寄れる安心感にほっとし、力をもらった。
みんなの日々の活力を、商店街の一角で、小さな丸いおやつで。いつも元気に、そっと支えられたらと思っている。
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- ドアや窓など、古くて心惹かれる建具を集めて作った店。夫の幸仁さんや2人の子ども、友人たちにも手伝ってもらっている。「直感でやりたいことをやってきました」とほほ笑む水野さん(写真中央)。店名は沖縄弁で太陽を意味する
- 蒸しパン/¥230~、さーたーあんだーぎー/各¥100、かまぼこおにぎり/各¥280(すべて税込)
- 「蒸しパン」は土日のみ販売。プレーンをはじめ、揖斐川町春日産の茶葉やチーズ、フルーツを使ったものなど、時々で種類が変わる
- 「さーたーあんだーぎー」と、ご飯を魚のすり身で包んだ「かまぼこおにぎり」は、ともに沖縄の郷土料理
- 自家製ピクルスも人気が高い
- 休憩スペースの机と椅子は、おばちゃんの店から譲り受けた
かまぼこおにぎりとさーたーあんだーぎーの店 ティダティダ
- 岐阜市日ノ出町1-20 ロイヤルビル1F
- TEL◇058-263-2278
- 営業時間◇11:00~17:00(平成29年4月より)
- 定休日◇水・木曜日、毎月12・28日
※そのほかイベント出店など不定休あり - URL◇http://tidatida.com