※2013年9月に移転されました
細い路地に建つ民家の玄関先。見落としそうなほど小さな緑の看板に「本田」の文字が見て取れる。友人の部屋を初めて訪ねるときのような、わずかな緊張感と好奇心を胸に扉を開く。
「こんにちは」と、少しシャイな表情で迎えてくれるのは、本田慶一郎さん。店を始めたいと物件を探していた春に、知り合いの紹介でこの場所とめぐり合った。細かく波打つすりガラスから透けて見える外の気配、鈍く光る床板、レトロな天井。何もかもが、「もう、完璧でした」。すぐにこの建物を借り、骨董から現代作家の作品までを扱う、店ともギャラリーともつかない空間をじっくりと作り上げた。そして、暑い夏の日に、ひっそりと「本田」を開いた。
本田さんのルーツのひとつは、母が収集していたスタンダードジャズのレコード。ビリー・ホリデイ、ニーナ・シモン、ナット・キング・コール。少年の頃、リサイクルショップに山積みされた道具の中から壊れたレコードプレーヤーを探し出し、修理して、母のレコードを繰り返し聴いた。その時に「膨大なモノの中から自分に必要なものを選び出し、大切にすること。捨てられていくもの、見向きされないものに、自分で価値を作ることの面白さに気づいた」という。以来、それが本田さんの芯となり、基準となった。
情報やモノがあふれ、すべてが慌しい時代のなかで、「本田」には独自の時間が流れているようにも見える。毎日の生活に使うことで幸せになれる美しいうつわ、着心地の良い服。本田さんの基準で選びとられ、並べられたものたちが、窓からこぼれる優しい光の中に息づいている。そして、ゆっくりと、ていねいに、日々の暮らしを重ねていくことの清々しさや贅沢さを、そっと教えてくれる。
Photo
- 「ここは店ではあるけれど、それだけではなく、何かを感じてもらえる『場所』でありたい」と本田さん
- 間口1メートルにも満たない細い路地に、小さな看板が置かれている
- 現代陶芸作家の安藤雅信、内田京子、吉田次朗、井山三希子らのうつわなどを取り扱う。「大量生産ではなく、作り手の顔がわかる、責任が持てるものだけを置いています。作り手、売り手、買い手が、お互いに顔が分かって、つながり、支え合うのは、本来は当たり前のことなんですよね」
- 窓辺に置かれたベンチに腰かけて、本田さんとのんびり雑談を交わして帰る人も
- あるべきものが、あるべき場所に置かれている、そんな印象を受ける絶妙のディスプレイ。まるで小さなギャラリーを覗いているようだ
- 内田京子作カップ/¥4,410
- 井山三希子作デミタスカップ/¥3,990
- 本田の看板
本田[ホンダ]
- 〒500-8068 岐阜市上太田町1-7醸造会館1F
- TEL.058-264-2980
- 営業時間◇11:00~19:00
- 定休日◇火曜日
- 駐車場◇2台
- URL◇http://hondakeiichiro.com/