創業180年余を数える老舗和菓子屋「奈良屋本店」。扉をカラカラと開くと、店番の友子さんが「寒くなりましたねぇ」と、にこやかに迎えてくれる。
ショーケースには季節の生菓子をはじめ、さまざまな和菓子が並ぶ。看板商品は「都鳥」と「雪たる満」。薄い和紙の包みを開くと、頼りないほどに軽く、ちょこんとこちらを見つめる小さな鳥が現れる。もうひとつは、狸のようにまんまるお腹の雪だるま。どちらも口に含むとふわりと溶ける、真っ白なメレンゲ菓子だ。 明治19年に三代目の山田留次郎氏が考案。当初は「雪たる満」だけだったが、明治天皇銀婚式に祝いの品として献上した際、お気に召された昭憲皇太后から「鳥の形にしてみては」とのお言葉があり、「都鳥」が誕生したという。
現在、伝統の技を受け継ぐのは六代目の青木利博さん。もとはアパレル業界に身を置いていたが、妻の友子さんの実家の生業を継ぎ、和菓子職人の道へ。五代目に教わった製法を頑なに守り続ける。
「うちは長年馴染みのお客さんばかりだからね。味が変わるとすぐに分かる。だから、計量も道具も作り方も昔のまんま。なんにも変えたりしないね」。
「都鳥」も「雪たる満」も、材料は卵白とザラメ糖のみ。専用の機械で数時間撹拌し、出来上がったメレンゲを袋に入れて一つひとつ手絞りで成形する。一旦作業が始まると、ほぼ休みなし。利博さんは約4時間、ひたすら絞り続け、一気に3000個を仕上げる。それを年代物の番重に並べて2日間乾燥させた後、熱した鉄の棒で目を焼き付ける。
その愛らしい姿と優しい甘さで人々を魅了する岐阜の銘菓。代々店主たちが守り続けてきた素朴な味わいは、明治の頃からずっと変わらない。
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- 店の奥にある作業場で、根気よくメレンゲを絞る青木利博さん。年末年始は贈答用に注文が殺到し、作業に追われる
- 季節の生菓子も評判が高い。新春の生菓子は手前から「紅梅」「椿」「松」/各¥200
- 番重にびっしりと並ぶ「都鳥」と「雪たる満」。4日がかりで完成したものを、最後に一つひとつ和紙でくるむ
- 明治33年にパリで開かれたフランス万国博覧会で名誉銀牌、4年後にセントルイスで開かれた寺界大博覧会で名誉大賞など、多くの賞を受賞。店内には数々の賞状が飾られている
- 絞り出した「雪たる満」の突起を軽く抑え、形を整えるのは友子さんの役目。夫婦二人三脚で伝統の菓子を守る
- 「都鳥」は絞り切る直前で手首を返し、くちばしの形を作る。「力の加減で、みんな少しずつ違う顔立ちになるんですよ」
- 長良橋通り沿いに構える店は、どこか昭和の気配を残す佇まい
奈良屋本店[ナラヤホンテン]
- 〒500-8069 岐阜市今小町18
- TEL.058-262-0067
- 営業時間◇9:00~18:30
- 定休日◇日曜日・第3土曜日
- http://www.naraya-honten.com/