他人のために今の自分ができることは何?
良心がもたらした奇跡のような実話。
ようこそ、あうん劇場へ!
今回の作品は、実在するアメフト選手、マイケル・オアーの半生を綴った人間ドラマ『しあわせの隠れ場所』です。
寒い冬の夜、ホームレス同然の生活を送る黒人の少年マイケルは、Tシャツ短パン姿で街を歩いていました。すると、ひとりの女性に声をかけられます。彼女の名は、リー・アン。夫、娘と息子の4人で暮らすセレブ一家の夫人です。身寄りのないマイケルを憐れに思い、自宅に連れ帰った彼女は、彼が高校2年生のときに養子として一家に迎え入れる決心をします。
家庭環境にも恵まれ、高校でアメリカン・フットボールを始めたマイケルは、その才能を一気に開花させます。そこから彼は、プロ選手としてのスターダムを駆け上がっていくのです。
これは誰もが耳を疑う、嘘のような本当の話。心優しい裕福な白人女性《=持てる者》が、黒人の貧しい少年《=持たざる者》に救いの手を差し伸べるという美談なのですが、こういう話は「どうせ金持ちだからできるんでしょ!」と思われがち。実際、お金がないとできないことも事実です。しかし、ここで問われているのは、もし自分がリー・アンと同じ《持てる者》だったとしたら、彼女のような選択ができるのかということ。
映画はリー・アンを聖女ではなく、とても人間らしく描いています。マイケルを泊めた翌朝には「何か盗まれていないか」と不安を感じたり、自分の選択が「ただの金持ちの自己満足だったのではないのか」と悩んだり。そんな“特別ではない”彼女が、葛藤しながらも良心にしたがって行動することを選んでいくのです。
「他人のために今の自分ができることは何か」を考えて実行する。これには、お金があるかないかは関係なくて、ただやるかやらないか、志の問題です。
毎日、騙し騙されのニュースがメディアを賑わせています。いつ自分がカモにされてもおかしくない怖~い世の中です。他人を素直に信じることが難しいそんな時代だからこそ、人の良心がもたらした奇跡のようなこの実話を、少しでも多くの人に観てもらいたいと思うのです。
最後にもうひとつ。アンを演じたサンドラ・ブロックが素晴らしい!なにが素晴らしいのかというと、いつもの演技となんにも変わらないところ!とっても自然体なのです。
私がはじめて彼女に注目したのは、1994年に大ヒットしたアクション映画「スピード」です。時速80キロで大型バスを走らせる強気な女性を演じていました。あれから16年。リー・アンは、自分のスタイルを貫いてきた彼女がやっと巡り合った、最大のはまり役です。
アカデミー主演女優賞受賞のニュースを聞いて、なんだか嬉しくなりました。
作品紹介
「しあわせの隠れ場所」
- The Blind Side
- 2009年/アメリカ/128分
- 監督 ジョン・リー・ハンコック
- 出演 サンドラ・ブロック/クィントン・アーロン/ティム・マッグロウ ほか